こんにちは。ようこそいらっしゃいました。
ここでは、私の8ミリ映画に出演した人形のお話をします。2点ご紹介しますが、これらの人形 の共通点は、固まっていないことです。決して固まらない油性粘土で作られたので、完成後も 変形できるというものです。なぜ、そのようなもので作るかというと、ブラザーズ・クウェイ『ス トリート・オブ・クロコダイル』や、ヤン・シュヴァイクマイヤーアニメーションをご覧になった方 も多いと思いますが、私はまさしくあの世界に魅せられたのです。自分の作った人形が、画面 の中で動く・・・。こんな夢のようなことが実現できたら!!クウェイ兄弟に衝撃を受けた1987 年。アニメ撮影の出来る中古のビデオカメラを買って、初めて人形を動かしたのは1991年 頃だったと思います。私が何かを作る場合、独りきりでやることが基本なので、人形を少しず つ動かしながら一コマずつ撮影をするのは、レリーズ(写真屋さんが使っていますね)のない ビデオカメラでは、本当に大変でした。でも、苦心して撮ったシーンを再生して、初めて人形が 自分で動いているのを見たとき・・!その感動は忘れません。その後、憧れの8ミリフィルムカ メラを(もちろん中古で)入手、まったくの勘と「やってみる」精神の創作は続いたのでした。



ビデオでひとつ作ってみて思ったことは、私は顔の表情の動きに関心があるのだということで した。人形の身体がどれほど動こうと、顔の表情がはっきりとわからないショットはあまりピン ときません。顔の動き、それも基本的に哀しみや苦しみの表情にこそ、私は美を感じたので す。人形たちが悲しみ、涙を流し、苦しんでどうしようもなくなった後に、ふと風が変わったよう に見せる微笑・・。当時は頭でこう考えていたわけではなく、心のままに進めてゆくと、なぜか いつもそうなるのです。今となって、はっきり見えるのですが、これは私自身なのですね。自分 の情念のようなものを投影しているからこそ、この作業は私にとって非常な魅力をもっていた のです。
上の子は、油粘土で作った頭部のみの子です。涙は蜂蜜です。ゆっくり流れてくれるので、と ても良いのです。この写真は、どっちつかずの表情ですが、少し笑ったり、つらそうにどんどん ゆがんでいって、ついに発狂してしまう・・というシーンもありました。
8ミリ作品のタイトルは、『Trauma-トラウマ-』という、そのものズバリの題でした。1991〜92 年当時は、この言葉は今ほど社会に浸透していなくて、今より詩的な風合いがあったのです。



さて、この子はまた、いかにも問題を抱えていそうです。頭には包帯が巻かれ(ヘルンヴァイン の絵に出てくる子みたいに)、放心したような表情です。この子は、支配的な母親の下で、他 者に心を開くことはもちろんのこと、自分の気持ちを言葉にすることさえも教えられず育ったの で、苦しんでいるのです。なぜ、どのように苦しいのか、言葉にできないから、解決策も見つけ られません。そして摂食障害にかかっています。嘔吐に苦しむうちに、自分が吐いているの は、自分のなかにいる母親なのだ・・と気づくのです。
『混沌−カオス-の沼から』というタイトルのこの作品は(も?)、自分に重なるものが大きいこ とで、私にとっては戦いのようなものだったと思います。しかし、本能的に、救済のシーンを最 後に入れました。オルゴールの舞曲をバックに、この子が他者(といっても、ゴムでできたイモ リか何か、爬虫類のおもちゃを使ったのですが)を抱いて、愛しそうに頬ずりする、口元に笑 みが・・というものでした。
これらの8ミリ作品を、いつかデジタルに変換して、あちこち手直しして、ここでご覧いただけた ら嬉しいのですが。私の映写機は、もう何年も前に壊れてしまいました。 それでは、また・・。
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